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京都地方裁判所 昭和51年(ワ)1407号 判決 1978年9月18日

昭和五一年(ワ)第一一四四号事件原告

下山留五郎

ほか一名

昭和五一年(ワ)第一一四四号事件被告・

小倉行夫

第一四〇七号事件原告

昭和五一年(ワ)第一一四四号・

岡本とし子

第一四〇七号事件被告

昭和五一年(ワ)第一四〇七号事件被告

岡本智栄

ほか一名

主文

一一四四号

一  被告岡本とし子は、原告下山留五郎に対し一、四七七、九一三円およびうち一、三四七、九一三円に対する昭和五一年九月二六日以降、うち一三〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降、原告下山きぬに対し一、一二七、九一三円およびうち、一、〇二七、九一三円に対する昭和五一年九月二六日以降、うち一〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日以降各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告下山留五郎、同下山きぬの被告小倉行夫に対する請求および被告岡本とし子に対するその余の請求を棄却する。

一四〇七号

三  被告岡本とし子被告小倉行夫に対し、被告岡本智栄、同岡本昌代は、各自一、二一六、一〇一円およびこれに対する昭和五一年一二月二一日以降各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告小倉行夫のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告下山留五郎、同下山きぬと被告岡本とし子、同小倉行夫の間で生じた分についてこれを七分し、その六を同原告らの負担とし、その余は被告岡本とし子の負担とし、被告小倉行夫と被告岡本とし子、同智栄、同昌代の間で生じた分について、これを七分し、その一を被告小倉の、その余を被告岡本とし子、同智栄、同昌代の負担とする。

六  この判決の一項および三項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

一一四四号

1  原告下山留五郎および同きぬ

(一) 被告岡本とし子、同小倉行夫は、各自、原告下山留五郎に対し、金一一、〇五三、〇四二円およびうち金一〇、二五三、〇四二円に対する本訴状送達の日の翌日以降、うち金八〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降、同きぬに対し金一〇、五八一、〇五二円およびうち金九、七八一、〇五二円に対する訴状送達の翌日以降、うち金八〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言。

一四〇七号

2  被告小倉行夫

(一) 被告岡本とし子、同智栄、同昌代は、各自、被告小倉に対し、金四、二二〇、八〇四円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告岡本三名の負担とする。

(三) 仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

一一四四号

1  被告岡本とし子、同小倉行夫

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

一四〇七号

2  被告岡本とし子、同智栄、同昌代

(一) 被告小倉行夫の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告小倉の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

一一四四号

1  原告ら

(一) 事故の発生

(1) 事故発生日 昭和五〇年一〇月五日午前一時四五分頃

(2) 発生場所 京都市東山区五条通東大路東入る、国道一号線(いわゆる五条バイバス)

(3) 加害車および運転者 亡岡本正豊、普通乗用自動車(京五六す八〇〇四)

被告小倉行夫、普通貨物自動車(三、一一に六七三)

(4) 被害者 亡下山都史子(右岡本車に同乗中)

(5) 態様 国道一号線を東進する岡本運転の普通乗用自動車の右前部と、西進する小倉運転の普通貨物自動車の右前部が衝突。岡本正豊および下山都史子が、即時同所で死亡した。

(二) 責任原因

(1) 被告岡本とし子は、亡正豊の妻であり、本件普通乗用自動車の所有名義人であり、自己の名において自動車損害賠償責任保険を締結し、右車両を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(2) 仮に、被告岡本とし子が運行供用者ではなく、亡正豊が運行供用者であつたとしても、被告は亡訴外人の相続人としてすくなくとも三分の一の責任を免れない。

<1> 被告岡本は、昭和五〇年一〇月五日、本件事故により死亡した訴外正豊の妻である。

<2>(ⅰ) 被告岡本は、訴外正豊の相続人として、昭和五一年一月末ころ、本件事故に関する自賠責保険金一〇、五〇〇、二二四円を受領した。

(ⅱ) 被告岡本は、昭和五一年九月一四日、実質的には亡正豊の所有であつた京都市伏見区醍醐僧尊坊町一番一四一所在の宅地五六・八〇平方メートルおよび同地上の建物を訴外白川幸一に売却し、右代金を私に消費した。

(3) 被告小倉は、本件普通貨物自動車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(三) 損害

本件事故により、亡都史子および原告らの蒙つた損害は次のとおりである。

(1) 亡都史子の逸失利益 二四、九五四、三七四円

<1> 亡都史子は、本件事故による死亡当時、三一歳の女性であり、京都市東山区祇園花見小路リザーブクラブ「アン」こと訴外本郷民子方にホステスとして勤務し、月平均二一二、〇四三円を得ていた。亡都史子は少くとも四六歳までは右職に就労可能であり、同人も生涯独身のうちに過ごし、四六歳に至るまでは就労予定であつた。生活費等控除率を五〇%としてライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除し現在価格を計算すると、一三、二〇六、〇三八円(212,043×12×0.5×10,380=13,206,038)となる。

<2> 訴外都史子は、右<1>勤務のかたわら、京都市右京区嵯峨天竜寺造路町三四―五メナード化粧品嵯峨出張所の化粧品販売員として月平均一一八、三三三円を得ていた。右業務は年齢に関係がないから、就労可能年数を三六年、生活費等控除率を五〇%として<1>と同様に現在価格を計算すると、一一、七四八、三三六円(118,333×12×0.5×16,547=11,748,336)となる。

<3> 右<1>および<2>の合計額二四、九五四、三七四円が逸失利益である。

(2) 亡都史子の慰藉料 八、〇〇〇、〇〇〇円

亡都史子は、将来独立して自分の店をもつことを夢み、日々をひたすら生きてきたのに、本件事故により無惨にも死亡したものであり、その精神的損害は少くとも八、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

(3) 原告らの右賠償請求権の相続 各一六、四七七、一八七円

原告らは、亡訴外人の父母であり、同人の逸失利益および慰藉料の賠償請求権を法定の相続分に従い各二分の一宛相続した。

(4) 原告下山留五郎固有の損害 四七一、九九〇円

<1> 医療費 二一、九九〇円

<2> 葬儀費 三五〇、〇〇〇円

<3> 仏壇購入費の一部 一〇〇、〇〇〇円

(5) 原告等固有の慰藉料 各三、〇〇〇、〇〇〇円

亡都史子は、原告らの四人の子のうち、特に原告への思いやりが深く、家計の中心となり父母を支えてきたもので、突然都史子を失つた原告らの精神的苦痛を慰藉すべき額は、各三、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(6) 弁護士費用 各九〇〇、〇〇〇円

原告らは、本件訴訟の追行を原告代理人に委任し、各一〇〇、〇〇〇円の着手金を支払つたほか、各八〇〇、〇〇〇円の報酬を支払うべきことを約した。

(7) 損害の填補 各九、七九六、一三五円

原告らは、本件事故による損害の填補として自賠責保険金を各九、七九六、一三五円受領した。

(8) 以上によると、原告留五郎の損害は一一、〇五三、〇四二円、原告きぬの損害は一〇、五八一、〇五二円となる。

(四) よつて、原告らは、被告ら各自に対し本件交通事故の損害として原告留五郎につき一一、〇五三、〇四二円およびうち一〇、二五三、〇四二円に対する本件事故発生日以後である本訴状送達の日の翌日以降、弁護士費用のうち報酬金八〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降、原告きぬの損害一〇、五八一、〇五二円およびうち九、七八一、〇五二円に対する本訴状送達の日の翌日以降、同じく八〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一四〇七号

2  被告小倉行夫

(一) 事故の発生 請求原因1の(一)と同じ。

(二) 責任原因

(1) 亡正豊は、前方不注意のうえ、飲酒運転のため正常な運転が出来ず、運転を誤り、対向車線上に高速のまま大きく進入したため、自車進路を進行していた被告小倉車は急性動措置をとるとともに左に転把したが、前記岡本車に衝突するに至つた。本件事故は亡正豊の右過失に基因するものであり、同人は民法七〇九条により、被告の蒙つた損害を賠償する責に任ずべきである。

(2) 亡正豊は昭和五〇年一〇月五日死亡し、被告岡本とし子は、同人の妻、同智栄、同昌代は同人の子である。

(3) 被告岡本三名は、昭和五一年二月五日、被告小倉車自賠責保険契約先の東京海上火災保険株式会社から保険金一〇、五〇〇、二二四円を受領した。

(三) 損害

本件事故により被告小倉の蒙つた損害は次のとおりである。

(1) 車両損害

被告小倉所有の被害車両は、昭和五〇年八月三〇日、購入諸費用を除いて代金三、一〇〇、〇〇〇円で新車購入したもので、わずか三五日間走行したのみで大破に至りスクラツプ同様になつた(全損)。従つて、事故時の右車両評価分三、〇二二、五〇〇円の損害を蒙つた。

(算式) 営業用トラツクの耐容年数三六か月、この期間後の車両価額を三一〇、〇〇〇円(一〇%相当)とすると、約一か月の使用により、となる。

(2) 休業損害

被告小倉は、運送業を営んでいるが、本件事故から代替車購入時の昭和五一年一月八日までの約三か月間、車両使用が出来ず、そのために月平均一八〇、〇〇〇円の営業上の損害を蒙つた。

(3) 車両保管料等相当損害

本件被害車両は、事故現場にて大破し、自力走行能力を失つたため、訴外株式会社木村組レツカーにより牽引・保管されるに至つたが、被告小倉はその請負代金四〇〇、〇〇〇円を同社に支払い、同額の損害を蒙つた。

(4) 登録費等諸費用相当損害

被告小倉は、本件事故のため再び新車購入の必要に迫られ、二重に登録費用、保険手数料、保険料等の諸費用の支出を余儀なくされたので、その費用合計二五八、三〇四円の損害を蒙つた。

(四) よつて、被告小倉は、被告岡本とし子、同智栄、同昌代に対し、右損害金四、二二〇、八〇四円およびこれに対する訴状送達日の翌日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

一一四四号

1  被告とし子の認否

(一) 請求原因1の(一)の事実は認める。

(二) 同1の(二)の(1)のうち、被告とし子が、亡正豊の妻であること、本件普通乗用自動車の登録名義人であること、自己の名において自賠責保険契約を締結していることは認めるが、被告が運行供用者である点は争う。すなわち、本件車両は亡正豊の所有であり、亡正豊が自己の資金で購入し、保険料、ガソリン代修理費等すべて同人が支出して、もつぱら自己の仕事の用に供していたものである。亡正豊の事業の失敗により債務を負うに至つた場合に、債権者の追及から右車両を守るために妻である被告とし子名義にしておいたものであり、被告とし子にはいかなる運行支配も運行利益もなかつた。

また、訴外下山都史子は無償かつ好意同乗者であつて、自賠法三条にいう「他人」に該当しない。

同1の(二)の(2)<1><2>の事実は認めるが、被告は相続の放棄の申述をなし、京都家庭裁判所で昭和五一年二月一三日受理されている。(1)の自賠責保険金請求権および(11)の不動産はいずれも相続財産を構成しないから、その処分は民法九二一条一項の相続財産の処分行為に該当しない。

(三) 同1の(三)のうち(7)の事実は認め、(1)の<1>の事実は争い、その余の事実は不知。

2  被告小倉の認否

(一) 請求原因1の(一)の事実は認める。

(二) 同1の(二)の(3)の事実は認める。

(三) 同1の(三)のうち(7)の事実は認めるが、その余の事実は不知。

一四〇七号

3  被告とし子、同智栄、同昌代の認否

(一) 請求原因2の(一)の事実は認める。

(二) 同2の(二)のうち、(1)の事実は争い、(2)、(3)の事実は認めるが、民法九二一条一項の処分行為には該当しない。

(三) 同2の(三)のうち(2)の事実は争い、その余の事実は不知。

三  抗弁

一一四四号

1  被告とし子の抗弁

(一) 損害賠償請求権の放棄

訴外下山都史子は、亡正豊の酒酔い運転を承知のうえで深夜ドライブに出かけたものであり、あらかじめ損害賠償請求権を明示的ないし黙示的に放棄した。

(二) 過失相殺の抗弁

仮に訴外都史子が自賠法三条にいう他人にあたるとしても、同人は無償かつ好意同乗者であり、しかも訴外正豊の飲酒運転を熟知して同乗したものであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

2  被告小倉の免責の抗弁

本件事故は飲酒運転のためセンターラインを大きく越えて対向車線に進入走行した亡岡本正豊の一方的過失により惹起されたもので、対向車両運転手であつた被告小倉は、右岡本車との衝突を避けることができなかつた。従つて、被告小倉には過失はなくかつ、小倉車は購入してから三五日目の新車であつて自動車の構造機能に障害はなかつたので、被告小倉は責任を負わない。

一四〇七号

3  被告とし子、同智栄、同昌代の過失相殺の抗弁

本件事故は被告小倉の前方不注視および減速等の結果回避義務を怠つた過失に責任の一半があつたものであるから、賠償額算定につきこれを斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

一一四四号

1  原告ら

抗弁1の各事実、同2の事実はいずれも否認する。

一四〇七号

2  被告小倉

抗弁3の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

一一四四号、一四〇七号

請求原因1の(一)、同2の(一)の事実は各当事者間に争いがない。

第二責任原因

一一四四号

一1  被告岡本とし子の責任

(一) 被告とし子が自賠法三条本文にいう本件車両の運行供用者該当するかについて検討する。

被告とし子が訴外正豊の妻であつたこと、本件車両の所有名義人であること、および自己の名において自賠責保険契約を締結していることは当事者間に争いがない。そして、被告とし子の本人尋問の結果によれば、同人は、夫亡正豊が仕事の用に供するため本件車両を購入するに際し、将来万一事業に失敗し債務を負つた場合に債権者の追及を免れるために、同人名義にしたこと、本件車両はもつぱら亡正豊が使用していたこと、月賦代金は被告とし子が自分の金で支払つたこと、ガソリン代もとし子自身が支払つていたこと、および本件車両はとし子と亡正豊が夫婦として生活していた伏見区醍醐にある家の前に駐車しておいたことが認定できる。そして、以上の各事実からすれば、被告とし子と亡正豊は夫婦として生活を共同し、互いに協力扶助すべき客観的には一体の間柄にあり、とし子は、名義使用の許諾(ないしは黙認)、代金の支払等の関係を通して亡正豊が本件車両を運行の用に供することに協力してきたものというべきである。従つて、右のような客観的な側面から見れば、被告とし子も訴外正豊とともに本件車両の運行に対する支配権を有し、かつその運行による利益を享受する立場にあつたものと解されるから、同人も自賠法三条にいう運行供用者に該当するものと解するのが相当である。

(二) また、自賠法三条にいう他人とは、運行供用者および運転者以外の者をいうものであると解すべきところ、成立に争いのない甲第一号証の一によれば、亡下山都史子は亡正豊が運転する本件車両の右後部座席に乗つていたものであることが認められ、無償かつ好意同乗者であるとみられるが、直ちに自賠法三条にいう他人でないものと即断することはできず、亡都史子は同条にいう他人に該当するものというべきである。

(三) 次に抗弁1の(一)について判断するに、証人尾崎一の証言によれば、亡正豊は本件事故当時、酒気を帯びていたことが認められ、ホステスをしていた訴外亡都史子も当然この事実を知つていたことが推認されるが、このことをもつてしても事故によつて蒙つた損害の賠償を請求する権利まで放棄したものとは認められず、ほかに、抗弁1の(一)を認めるに足りる証拠はない。

(四) 従つて、被告都史子は自賠法三条により、本件事故による原告らの蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告小倉の責任

(一) 請求原因1の(二)の(3)の事実は当事者間に争いがないので、被告小倉は、自賠法三条により、免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

(二) いずれもその成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、同一号証の四、証人尾崎一の証言および被告小倉本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1 事故発生現場道路は、東方に向つて、一〇〇分の六の勾配の上り坂で、左側にゆるくカーブしているコンクリート道路で、上り、下りともに二車線づつあつたのが、衝突地点の直ぐ西側は陸橋に通ずる道路、左右から東山通りに通ずる道路の上下各一車線となり、陸橋と東山通りに向う道路の間には、分離帯が設置されており、西側の陸橋に通ずる道路の上り車線と下り車線(幅員は各五・二メートル)の境界にはセンターラインが設けられている。車両走行速度は上り車線時速四〇キロメートル、下り車線時速五〇キロメートルに制限されており、事故当時、路面は温潤であつた。

2 被告小倉は、本件普通貨物自動車(四・五トン、車幅二・一八メートル)を運転して下り車線を走行してきたところ、陸橋からの前方対向車線に訴外岡本正豊の運転する普通乗用車のヘツドライトが見えたが、同車には何の異常も認められなかつた。衝突地点の四〇ないし五〇メートル手前までは、小倉は時速五〇ないし五五キロメートルで走行し、その後もやや減速しただけで右側タイヤがセンターラインより内側約一・九メートルの位置になるあたりを進行した岡本車と被告小倉車との距離が約三〇メートルになつたとき、岡本車がセンターラインを少し割つたことに気づいたが、小倉は岡本車がすでに自車線に戻ると考えて進行したところ、依然として同車が制限速度を超える速度でそのまま進行してきたので、急制動をかけるとともに左に転把して逃げようとしたが両車両の右前部が衝突した。以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はいずれも採用しない。

右事実によれば、被告小倉に前方不注視の過失があつたものとは認められないので、次に減速もしくは転把義務について判断する。

本件では、小倉が最初に岡本車を発見し、両車間が三〇メートルの距離になるまでは、岡本車には何らの異常が認められなかつたのであるから、ここまでの時点では減速もしくは転把の措置をとる必要はなかつた。そして、三〇メートルの距離となつた時点においても、(予めそれ以前に異常が続いて認められた場合は格別)自動車運転者としては、相手方が交通法規を遵守し、注意義務を尽して運転をするものと信頼して運転すれば足り、岡本車のごとくセンターラインを超えて自車線に進入してくることを予想して直ちに減速ないし転把して事故の発生を未然に防止すべき注意義務はないものと解するのが相当である。また、前記認定の両車の速度、下り車線の左側に分離帯があること等から考えて転把しても事故を回避することは不可能であつたと認められるから、被告小倉に過失はないというべきである。

(三) また以上認定の事故態様に照らせば、本件事故が運行供用者である被告小倉車の構造上の欠陥または機能の障害により生じたものでないことも明らかである。

(四) 従つて、被告小倉の自賠法三条但書による免責の主張は理由があり、同被告に対する原告らの本訴請求は理由がない。

一四〇七号

二  被告岡本とし子、同智栄、同昌代の責任

(一)  本件事故は、すでに一の2で認定したとおり、訴外正豊の不法行為に基づくものであるから、同人は本件事故によつて発生した被告小倉の損害を賠償する責任がある。

(二)  請求原因2の(二)のうち、亡正豊が本件事故により死亡したこと、被告とし子は亡正豊の妻、被告智栄、同昌代はその子であること、および同被告らが亡正豊に対する相続人として、昭和五一年二月五日に、自賠責保険金を受領したことは争いがなく、成立に争いのない乙第一、二号証によれば、被告岡本三名の相続放棄の申述が昭和五一年二月一三日京都家庭裁判所で受理されたことが認められる。

(三)  ところで、右自賠責保険金請求権は、自賠法一六条一項が、被害者が直接保険会社へ請求できる途を開いたものであり、ここに被害者とは自動車事故による被害者をいい、本件においては訴外正豊であると解すべきである。被告らは被害者が即死の場合には、相続人が自賠法一六条一項によつて原始的に直接請求権を取得すると主張するが、かく解すると重傷後の死亡の場合と即死の場合とで同法一六条の被害者の概念が異なるという不合理を生じ妥当ではなく、生命侵害の場合も身体傷害の極限概念として考え、死者が死亡の直前に身体傷害の極度として死亡による損害と同一内容の請求権を取得し、それが相続されると解するのが相当である。

(四)  従つて、自賠法一六条一項による自賠責保険請求権は、亡正豊の相続財産を構成するものであるから、被告岡本三名が右請求権を行使し、保険金を受領したことは、民法九二一条一号の法定単純承認に該当するものというべく、同被告らの相続放棄の効力がなく、被告らは亡正豊の被告小倉に対する損害を賠償する責任があるといわねばならない。

第三損害

一一四四号

一  原告ら

1(一)  亡下山都史子死亡による逸失利益

(1) 原告下山留五郎本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第四号証によれば、亡下山都史子は、事故当時三一歳で、訴外リザーブクラブ「アン」こと本郷民子方にホステスとして勤務し、毎月平均二一〇、五六七円の収入を得ていたことが認められる。同人は、本件事故により死亡したため、右得べかりし利益を喪失したが、本件事故に遭遇しなければ向後満三八歳(ホステスという職業柄、(2)の販売員としての勤務との兼合いを考え、三八歳を適当と認める)に達するまでの七年間右ホステスとして稼働し得たものと認められるから、この間における同人の得べかりし利益を一か月平均生活費五〇%を控除してライプニツツ方式により算出すると、その額は七、三一〇、〇四三円(210,567×12×0.5×5,786=7,310,043、円以下切りすて)となる。

(2) 原告留五郎本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第五号証によれば、亡都史子は、ホステスとして勤務するかたわら、メナード化粧品嵯峨野出張所の販売員として勤務し、毎月平均一一八、三三三円を得ていたことが認められる。その職業の性質上、満六〇歳まで就労可能であると考えられ、右年齢に達するまでの二九年間に同人の得べかりし利益を前同様に算出すると、一〇、七五〇、〇七九円(11,8333×12×0.5×15,141=10,750,079)となる。

(3) よつて同人の逸失利益は一八、〇六〇、一二二円となる)ホステスは収入のうち、かなりの額を生活費として費消するものと考えられるので、亡都史子の右収入で、販売員収入と重なる部分も生活費五〇%を控除するのが相当である)。

(二)  亡都史子の慰藉料

亡訴外人は、本件事故により死亡したが、本件事故当時における同人の年齢その他諸般の事情を考慮すると、その慰藉料としては、五、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(三)  原告らの相続人としての損害

成立に争いのない甲第二号証および原告留五郎本人尋問の結果によると、原告らの亡都史子の父母であり、同人の相続人として、右(一)の損害賠償請求権および右(二)の慰藉料請求権(計二三、〇六〇、一二二円)を各二分の一の相続分に応じてそれぞれ一一、五三〇、〇六一円宛相続したことが認められる。

(四)  原告下山留五郎の損害

(1) 医療費についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(2) 原告留五郎本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第六号証、七号証によると、原告は亡都史子の葬儀費用として七一八、五〇〇円、仏壇購入費として四八五、〇〇〇円を支出していることが認められるが、このうち、本件事故と因果関係のある損害は各二〇〇、〇〇〇円計四〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(五)  原告ら固有の慰藉料

本件事故の態様、亡都史子と原告らとの身分関係その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、慰藉料としてはそれぞれ二、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当とすべきである。

2  過失相殺

前記第二の1の(三)認定の事実によれば、訴外都史子は単なる好意同乗者にとどまらず、訴外正豊が飲酒していることを知りながら右後部座席に乗車したことを考慮すると過失相殺として原告らの損害の二割を減ずるのが相当と思われる。

その結果損害は、原告留五郎一一、一四四、〇四八円、原告きぬ一〇、八二四、〇四八円(いずれも円以下きりすて)とある。

3  損害の填補

請求原因1の(三)の(7)の事実については当事者間に争いがない。よつて、原告らの前記損害額から右填補分を差引くと、残損害額は、原告留五郎一、三四七、九一三円、同きぬ一、〇二七、九一三円となる。

4  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は原告留五郎一三〇、〇〇〇円、原告きぬ一〇〇、〇〇〇円とするのが相当と認められる。

以上によると、原告留五郎の損害は一、四七七、九一三円、原告とめの損害は一、一二七、九一三円となる。

二  被告小倉行夫

1  車両損害など 三、四四八、三〇四円

被告小倉本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる丙第一号証、第二号証、第五号証によれば、被告小倉の普通貨物自動車は昭和五〇年八月三一日に購入し、約一か月後に本件事故により大破し全損したこと、同人は、昭和五一年一月に本件車両と同種の新車を代金三、一〇〇、〇〇〇円で購入したこと、購入に際し、登録費等諸費用二五八、三〇四円を支払つたこと、および本件事故車両の牽引保管料四〇〇、〇〇〇円を訴外株式会社木村組レツカーに支払つたことが認められる。そこでこれら損害は次のとおりとなる。

(1) 車両損害 二、七九〇、〇〇〇円

事故車の購入代金から、事故車の減価償却分を差し引いた時価二、七九〇、〇〇〇円を車両損害とする。すなわち、事故車は購入後約一月後に全損したのであるから、その購入価格より、いわゆる車検落ちとして一割控除した事故時の時価二、七九〇、〇〇〇円をもつて車両損害とすべきである。

(2) 登録費、保険料等諸費用 二五八、三〇四円

(3) 事故車の牽引料・保管料 三〇〇、〇〇〇円

2  休業損害 二〇〇、〇〇〇円

被告小倉本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる丙第六号証の二ないし四によれば、小倉は営業免許を得ないで、運送業を営んでいたこと、事故後三か月間は代替車の賃貸ないし購入をしなかつたこと、事故前三か月間は月平均五〇〇、〇〇〇円強の水揚げがあり、そのうち約半分の二〇〇、〇〇〇円を利益として得ていたこと、被告小倉は事故のため一月間仕事を休んだこと、事故による傷害の程度が軽くいわゆる強制保険からも治療費の交付がなかつたことが認められる。したがつて、一か月の休業損害として二〇〇、〇〇〇円の収入を失つたことになる。

以上によると、被告小倉の損害は計三、六四八、三〇四円となる。

第四結論

よつて、被告岡本とし子は、原告下山留五郎に対し、一、四七七、九一三円およびうち一、三四七、九一三円に対する本件事故発生日以後で本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年九月二六日以降、うち一三〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降、原告下山きぬに対し一、一二七、九一三円およびうち一、〇二七、九一三円に対する右同様昭和五一年九月二六日以降、うち一〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日以降民事法定利率たる年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、被告小倉に対する請求および被告岡本とし子に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、被告小倉に対し、相続分に応じて被告岡本とし子、被告岡本智栄、同岡本昌代は各自一、二一六、一〇一円(円以下きりすて)およびこれに対する本件事故発生日以後で訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかである昭和五一年一二月二一日以降支払ずみまで民事法定利率たる年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、被告小倉の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小北陽三)

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